去年M3ネジを使って
電動シリンダを作成しました。
小型で良いのですが、送り速度を上げるためにはもっとピッチの大きなネジが必要になります。
そこで送りネジ(リードスクリュー)を自作しました
旋盤等は使わず、真鍮パイプにスズメッキ線を巻いて半田付けしています。
前置き(長め)
低価格で購入できればそれに越したことは無いので通販で購入できないか探しました。最近では3Dプリンター向けに8mmぐらいのボールねじを売っています。しかし、自分が欲しいのはもっと小径でもっと軽量な送りねじです。
ボールねじや台形ネジなどを作る場合は本来旋盤などを使うのですが、個人で作るには旋盤を買う予算も旋盤を置く場所もありません。そもそもφ5mm-L300mmの様な細長いネジを旋盤で加工できるとは思えません。
続いてピッチの大きなネジの規格が無いか探しました。ダイスを購入すれば自分で長いネジを作ることができます。インチネジ(UNC)を使えばメートルネジより少しピッチを大きくすることができますがもっと大きなピッチが希望です。
そこで旋盤を使わずにピッチが大きく長いネジを作る方法を検討しました。
ヒントとなったのは知人の「バネを送りネジの代わりに使った」という話です。
金属材を削らずとも何からせん状の物があれば送りネジとして利用できます。
伸縮ポールもこの考え方です。
バネ形状だと大きな力が加わった時に変形する
→棒にらせん状の何かを固定すれば作れる?
→らせん状の何かをどうやって入手する
→らせん状の何かをどうやって固定する
この2点を解決できれば送りネジを作る事ができます。
らせん状の何かを入手
まずはバネをそのまま利用する事を考えました。
ピッチが揃っていて引っ張ればピッチを調整することもできます。
ところが希望の長さ、線径、巻き径を満たすバネが見つかりません。
バネ自体はオーダーメイドで作ることができるのですが、そこまでお金をかけたくありません。
自分で巻いて作ることはできないだろうか?
手元にアルミの軟線があったので巻いてみました。
→最初からピッチを均一に巻く
→難易度が高いので却下
→
密に巻いてから・・・ →バネの様に引っ張って広げる
→そんなに均一に広がらない
→
1周ずつ隙間を広げていく →
案外うまくいった一旦密に巻いておき、丸棒を押し当てながらコロコロするだけで綺麗にピッチが揃います。
ということで針金の様に巻いて形が残るものなららせんの材料として使えます。
もちろんちょうどいいバネがあればそのまま利用できます。
らせんの固定方法
続いて固定方法
素直に接着剤で固定?
→エポキシ系だと塗ったあとの整形がめんどくさそう
→瞬間接着剤だと使ってる途中でパキッと割れるかもしれない
正直、
瞬間接着剤で良い様な気がするのですが別の方法を検討しました
金属同士を付けたい
→溶接は厳しい
→
半田付け?ということで
真鍮を軸として
銅線とか
スズメッキ線とかを巻いて
半田付けします。
作り方
ここから本題です
材料と工具
・真鍮パイプ
・スズメッキ線
・半田ゴテ
・フラックス
・硬めの丸棒(送りピッチ調整用)
・パーツクリーナー等洗浄液
軽量化と半田付けの際の熱容量低減のため軸にはパイプ材を使用しました。
その辺を気にしなければ丸棒でも構いません。
銅のパイプでは柔らかすぎるので真鍮が良いでしょう。
今回は
φ3の真鍮パイプに
φ0.8のスズメッキ線を巻き、
φ3の棒でピッチを調整しました。
φ0.8のスズメッキ線とφ3の調整棒を使うと
送りピッチが3.5mmになりました。
送りピッチは軸となる真鍮パイプの太さではほぼ変化しません。
この組み合わせだと仕上がり100mmに対してスズメッキ線は400mm程度必要になります。
300mm位のネジを作るのでスズメッキ線を1200mm使用しました。
らせんの作り方
真鍮パイプにスズメッキ線を巻いていきます。
ピッチはあとで調整するのでとりあえず密に巻いていきます。
多少隙間ができても問題ありません。
折れ曲がってしまうと修正できないのでその点は注意。
巻く方向によって右ネジにも左ネジにもなります。
オーソドックスに右ネジとして巻きました。
巻き終わった状態
転がす時に邪魔にならないように端も巻き付けてしまいます。
直線部分を切断しても構わないと思います。
ピッチ調整
転がしてピッチ調整します。
強く押し付けるので真鍮パイプだと強度に不安が残ります。
そこで、タミヤクローラーセットのシャフトを使用しました。
真鍮パイプでも短ければ問題ありません。
とりあえず先を少し広げて
あとは押し付けながらコロコロすればきれいに広がります。
端まで広げ終わりました。
不要分はカットします。
らせんの固定
瞬間接着剤で固定する場合はこのまま接着すればいいと思います。
半田付けする場合はフラックスを塗ります。
全面を半田付けするため一旦らせんを外してフラックスを塗りました。
らせんが広がる向きに軸を回しながらゆっくり引けば軸を引き抜くことができます。
フラックスを塗って乾いたら反対の要領で軸を戻します。
全面を半田付けする場合は先に軸全体を半田メッキした方が良さそうです。
戻した後はもう一度コロコロしてピッチを調整します。
ピッチが広がりすぎた場合は一旦狭めてコロコロし直せばOKです。
点付けする場合はらせんを外さずに必要な部分だけフラックスを塗ればいいと思います。
半田付けします。
点付けしたらこんな感じ。
軸全体が高温になるので火傷に注意。
点付けだけで良いかなと思っていましたが、強い力をかけるとピッチがずれてしまうので結局全面を半田付けしました。
軸に半田の塊があるとネジが引っ掛かるのでコロコロしながら半田ゴテでらせんに沿って半田を伸ばしていきます。半田メッキなどで一度半田が付いた部分には温めるだけで半田が広がっていくのですが、フラックスを塗っただけだとなかなか半田が広がっていきません。
ガスコンロで炙れば簡単に広がるかと試してみましたが、炙っている間は表面の状態が見えず半田が広がる前に焦げてしまい半田が全くつかなくなりました。焦げを削り落とすのに苦労するのでガスコンロで全体を温めたい人は全部半田付けが終わった後の最終仕上げだけにしましょう。
半田付け後はフラックスが大量についています。
軸が十分冷めてから洗浄液等で洗い流します。
半田付け直後は高温なので火傷と火事に注意。
軸を確認して半田が溜まっている場所は温め直すかカッターナイフなどで削り落とします。
必要に応じて磨いてください。
これで送りネジが完成しました。
φ3mmの軸へ連結したいので内径φ3mm外径φ4mmの銅パイプを被せて半田付けします。
真鍮パイプだと固すぎてはまりませんでした。
相方の作成
送りネジだけだと使えないのでナットも作成します。
完成したネジへ針金などを巻けばナットになります。
硬度が欲しかったのでナット側はゼムクリップで作りました。
電動シリンダ用なのでパイプに突っ込んで使いますが、ユニバーサル基板などに止めて使うのも良いでしょう。φ3軸にφ0.8のスズメッキ線を巻いてφ4.6になるので、これなら内径φ5外径φ6のパイプにぴったりです。
パイプの端に溝を切ってここにはめ込みます。
一通り動かしてみて引っ掛かりがないか確認します。
OKそうならグリスを塗ってください。
電動シリンダー組立
こんな感じにしました
・軸φ3mmベースでφ4.6
・インナーチューブ 内径φ5外径φ6
・アウターチューブ 内径φ7外径φ8
パイプ長300mmに対してストロークは250mmとなりました。
インナーとアウターの隙間はアルミテープを巻いて調整しています。
送りネジとアウターとの隙間は内径φ4外径φ7のベアリングを入れています。
ギヤドモーターはPololu10×12の
6V高出力カーボンブラシ仕様(
エンコーダ付)を使用しています。
ギヤ比30:1で250mmを4秒(60mm/s)
ギヤ比10:1で250mmを1.5秒(160mm/s)
程度の速度が出ます。
個人的には満足できる速度になりました。
ギヤ比5:1だと250mmを1.2秒ぐらいで10:1とあまり変わりません。負荷が大きすぎる様なので10:1までにした方がいいでしょう。
組み立て終わってから気づいたのですが、
軸φ4、
インナーφ7、
アウターφ10にすれば10×12ギヤドモーターにぴったりに仕上がります。
まとめ
ずっと入手できなかった小径の送りネジを作ることができました。
半田付けが面倒なのでもう少し手順を考える必要があります。
バネ作成とメッキ加工ができれば量産できると思います。
上手くやればボールねじの代用品も作れそうです。